WORKERS STYLE vol.20
提灯東京™
「居酒屋って、こんなに自由でいいんだ。」
イシイヒデノリ / 提灯東京™ 店主
三浦半島・奥三崎。北条湾をなでる風に、海の匂いがかすかに混じる。そんな道の途中にふっと灯る明かりがある。そこが「提灯東京™」。店主はイシイヒデノリさん。1992年生まれ、現在33歳。もともとはファッションの畑にいた彼が、パリやニューヨークでの経験を経てたどり着いたのが“居酒屋”という空間だった。
「“海外から見たIZAKAYA”っていうテーマでやってるんです」
その店には、どこか不思議な空気が漂っている。たとえば──銀の串に刺さった焼き鳥、日本酒の横には静岡わさびサイダー。台湾や韓国、ニューヨークなどで見かけた“日本のようで日本じゃない居酒屋”の記憶を、ヒデさんは自分なりの視点で再構築している。
「ちょっとズレてる。でも、だからこそ心地いい。それが“提灯東京™”らしさなんだと思ってます」
彼が最初に料理の世界へ踏み出したのは、NYのチキンオーバーライスから着想を得た帰国後の東京で学生時代に行ったポークオーバーライスのPOPUPスタイルでの営業。アメリカで読んだPortlandの“店を持たない料理人”の記事に影響を受け、まだ日本にはなかった“ポップアップ”という形で挑戦した。
「洋服だけじゃなくて、料理や空間でもっと広い意味で“生活”を表現したいと思ったんです」
帰国して元相方と立ち上げたのが「提灯東京™」だった。東京下町のもつ焼き文化をベースにしながらも、炭酸や酒器にまでこだわるディテールは、ヒデさんのセンスが詰まった舞台だ。
カウンターには個性豊かな酒が並び、厨房に立つヒデさんの装いは、白Tにショートパンツ、キャップにバンダナ、ギョサンと前掛け。
「白Tは汚れていく過程すらひとつの“様”だと思ってます。キャップは髪が落ちないため。まあ、夏は暑くてしょうがないですけど(笑)」
そして、今日履いてもらったのが、HT03 Volume Pants Black。
「分厚くて無骨な生地。アメリカのブルーカラーを思わせる感じで、シワも染みも“味”になる。履き込んでいくのが楽しみですね」
彼の仕草にも、どこか“職人”の気配が滲む。
「オフで飲んでても、つい人のグラスの氷をステアしちゃうし、ビール瓶も一口飲んだらすぐ継ぎ足しちゃう。作法っていうより、癖。酒飲みの良心でいたいっていうか(笑)」
居酒屋という場所を、ただの“飲み屋”ではなく“文化の交差点”に変えようとしているヒデさん。そのまなざしは、すでに海の向こうを見据えている。
「近々、ニューヨークでポップアップをやる予定です。串焼きをはじめとするコースストーリー、ガストロノミー……全部ひっくるめて“提灯東京™”をアメリカに持っていきたいと思ってます」
三浦の食材、東京の大衆酒場文化、海外の日本酒場の視点、そして彼の創造力。それらが組み合わさった“提灯東京™”は、確かな灯りで町の人を今日も照らしている。
提灯東京™
所在地:〒238-0243 神奈川県三浦市三崎1丁目5−7 吉田ビル 1F
ジャンル:居酒屋/もつ焼き/一品料理/グルジアワイン(ナチュラルワイン)/焼酎/スピリッツ
コンセプト:海外の視点から再解釈された“居酒屋”文化を、自由なスタイルで表現する空間。
定休日:月曜日・出店時不定休(詳細はInstagramをご確認ください)
個人的pickup。
text and photograph: hilomi