WORKERS STYLE vol.17
“選ばれた者へ。銀に込める、感情。”
Hiroki Oguma / ジュエリーデザイナー〈LEGIOMADE〉
銀という素材に、そっと気配を吹き込む。
東京出身、1986年生まれ。高校時代に独学でジュエリー制作を始め、専門学校を経て、22歳で自身のブランド〈LEGIOMADE(レギオメイド)〉を立ち上げたHiroki Ogumaさん。指先の感覚に全神経を集中させながら、銀に“感情のかけら”のようなかたちを与えていく。
「最短距離って、“作ってる人と手”の距離なんですよ。そこが一番前線。60歳になって目が見えなくなっても、自分の手が覚えてたら、それでいいと思ってます」
制作は常に、その人と素材の間にある“沈黙”から始まる。
〈LEGIOMADE〉というブランド名には、こんな意味が込められている。
「ラテン語の“LEGIO”は“軍団”とか“選ばれた者”。ジュエリーも、作る人と使う人が互いに選び合う関係であってほしいと思った。“MADE”は“作ること”。だから“選ばれた者のためのものづくり”という意味です」
Ogumaさんにとって、ジュエリー制作はただ造形することではない。
自然、建築、動物、あらゆる“存在”を観察し、時間をかけて理解するところからすべては始まる。
「よく知らないまま作ると、やっぱり中途半端になっちゃう。形になる前に、まずは知ることが大事なんです」
そんな“知る”ことへの姿勢が、作品の細部にまで宿っている。静かに触れるような、あるいは、考えをなぞるような造形。そのどれもが、彼の対話の痕跡だ。
ジュエリーとアクセサリー、その呼び方ひとつにも違和感を抱くようになったのは、海外での経験がきっかけだったという。
「“アクセサリー?”って、鼻で笑われたことがあって(笑)。日本では銀もシルバーアクセサリーと呼ばれるけど、海外だと“ジュエリー”ってちゃんと呼ばれてる。銀も鉱石だし、宝石と同じ“価値”を持っているって考え方なんです」
彼は“装飾”としての価値を超えたジュエリーの可能性を信じている。
「インディアンジュエリーも、ただの飾りじゃなくて“文化の記録”。自分のつくるものも、素材に敬意を払って、ちゃんと価値として伝えていきたいんです」
ブランド初期は、鋭さや孤独、のある造形を追求していた。
しかし現在のLEGIOMADEは、そこに透明度や凪の様な静かさが加わった印象を受ける。
「昔の自分が今の作品を見たら、“ちょっと穏やかになったな”って思うかもしれない。でも、それでいいと思ってます。今のバランスが、自分にはちょうどいい」
商業的な活動と、純度の高い表現。どちらも欠かすことができないからこそ、変化と共に銀を形にしていく。
「売れないと思っても、どうしても作りたいジュエリーがある。今の自分が作らないと、昔の自分に嘘をつくことになる気がして」
今日履いてもらったヘリテージパンツについて聞くと、こんな答えが返ってきた。
「汚れたり、シワが増えたり、そういう変化が似合う服って、いいですよね。自分の動きや時間にちゃんと反応してくれる感じがする。ツールというより、自分という感覚」
彼にとって“服”とは、作業を助ける装備であり、意識せずに選んでいるものほど“信頼”している証だ。
「ちゃんと熱量に応えてくれるものを、選びたいと思ってます」
「最終的には、“評価されなくても、これが一番カッコいい”って、自分が思えるものを作ってたい。それが一番、自分を成長させてくれるから」
目が見えなくなっても、手がその記憶を辿れればいい。
彼の指先は、今日もまた、沈黙の中に思いを流し込み、銀に“時間”を込めている。
text and photograph: hilomi