WORKERS STYLE Vol.2
ヘリテージパンツは完成していない。
ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。
TETTA
1998年東京都出身。18歳の頃自身のアパレルブランドLOVACATIONを設立後、海外の彫師の影響で21歳の時にカフェの一角でタトゥーを彫り始める。23歳の時に自身のタトゥースタジオを立ち上げ彫師として独立。同時期に植物好きが高じ、庭師にも取り組む。
ー手とTE
もう何度目かわからないそのタトゥースタジオについたのは17時頃。奥まった雑居ビルを階段で5階まで上がるとそのスタジオが見えてくる。まだ若いし、動ける方だと思っていた自分が案外運動不足なのを思い知らされる。この階段も覚悟に入ってくるのか。TETTAくんとは餃子世界東京の小林さんに紹介してもらったのがきっかけでタトゥーを彫りに行ったのがはじめまして。会った瞬間からなんかこの人合うなっていうあの変な感覚があった気がする。後は年が一つ下とは思えない、雰囲気。先週ぶりの彼は少し疲れた表情でドアを開けてくれた。
・スタイル:彫師
―今日はよろしくお願いします。相変わらず忙しそうですね。
TETTA:いえいえ、そんなことありません。こちらこそ、よろしくお願いします。
―僕はある程度わかるのですが、彫師の仕事について改めて教えてもらえますか?
TETTA:そうですね。まずお客さんが入れたいモチーフを持ってきてくれるので、それを元にヒアリングを数回に分けて行います。そこから自分の経験やスタイルを加えて、独自のデザインに仕上げるんです。リクエストをただ形にするのではなくて、自分の「魂」っていうのかな、彫師としてその人にとって特別な意味を持たせるデザインにしていきます。
―その過程って、初めてタトゥーを入れる人にとっては未知の世界ですよね。
TETTA:そうですね。お客さんが単語だけを伝えてくれることもありますよ(笑)。例えば、大海くんなんかはいつも「こんな感じ」って言って一言二言だけでお願いしてきます(笑)。でもそんな短い言葉の中から真意をくみ取ったり会話の中で見つけたりしていって本物を出せるように努力してます。
―信頼しているからですよ(笑)やっぱりその彫る針なんかも重要になってくるんですかね。
TETTA:針というよりは「手」ですね。手が一番重要です。触れることが大事で、彫師にとっては視覚よりも大切かもしれません。握手をするところから始まり相手に触れ、彫る場所の肌を感じながら進めていくことが、この仕事で重要なのかなと。絵に魂を込めるのにも手は重要ですしね。なんでもやはり触れる。
―なるほど、手ですか。確かにデザインを起こすのも彫るのも相手を感じるのも手だ。働く時の服を選ぶ上でも重要なことはありますか?
TETTA:どうでしょうね。基本は古着しか買わないんですけど。破れたり汚れたりしてもそんなに目立たないし、そのまま使い続けるのが良い。毎日人と同じで表情、変わりますし、もっと新しい側面を見せてくれるんじゃないかなって。ボロボロでも見栄えが悪くなかったり、長く着れるっていう事はかなり重要かも知れないです。
―古着のイメージ強かったので気にはなってましたがそういう事でしたか。その点どうですか、ヘリテージパンツは。
TETTA:このパンツは面白いです。最初はしっかりした生地で硬いんだけど、履いていくうちにどんどん自分の体に馴染んできて。そうやって育てていくのが楽しいですね。ワイドなシルエットも気分だし。新品だけど、なんか馴染むの早いというか、いい表情なんだよなあ。褒めすぎたので、難点を挙げるとすればこれはすべてのワークパンツに言える事ですが、夏は難しいですね(笑)
―夏はね、難しい。でもねそのくらいの隙はある方が、愛せますよ。人も服も。
TETTA:勉強になります。
―最後ですけども、そんなTETTAくんにとってワークウェアってどんな役割を果たしているんでしょう?
TETTA:冷静に、落ち着かせてくれる存在ですね。魂込めて彫ってるって言いましたよね。やっぱり色々な人に寄り添っている分、時々わからなくなることもあるんです。感情が揺さぶられて、自分じゃないような。でもそんな自分の仕事を長い時間ともに居たワークウェアを見ると、今まで積み上げてきた自分を取り戻せるような気がしてます。
手は彼の哲学だ。出会い頭や弥栄の時、別れ際に、必ず手を交わす。視覚ではなく手で相手を感じることで、その人にとって唯一無二の存在となる。
そんな哲学は、彼が服と向き合うときにも如実に表れていた。共に成長し、時間を共有する服に対しても、人間と対峙するような感覚を持っている。
ヘリテージパンツの厚い生地の手触りにも、彼は特別な感覚を抱いており、その感覚が手を通じて自分の一部になることに喜びを見出していた。
人も服も、綻びや汚れといった変化が、時間を共にする中で必ず出てくる。それでもなお愛し、受け入れ、それを良さとしていくことが、時を共にするということなのだと彼は教えてくれた。
季節を重ね、汗や汚れが少しずつ生地に刻み込まれるごとに、服はまるで長年の友のように馴染んでいく。
ヘリテージパンツもまた、そんな時間を共にすることで、彼が迷ったり揺らいだりする時に無言の相棒として冷静さを取り戻させてくれる存在として、これからも彼を支えていくワークウェアになった。
text and photographs hilomi yoshida