WORKERS STYLE Vol.1
ヘリテージパンツは完成していない。
ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。
小林純平
1993年、東京都生まれ。ミュージシャン、餃子世界東京店長。大学卒業後、広告代理店に就職。同時期に「bathhouse」という“のぼせる”音楽をテーマにしたバンドのVo.としても活動、広告代理店を退職後、2022年から餃子世界東京の店長に。
Instagram:@j_kobayashi_888
―チャオズによろしく
東京、水道橋にかなり背の低い入口でお辞儀でもしないとは入れない餃子屋、「餃子世界東京」がある。看板もないしポツンと急にあるものだから最初行ったときは、「これお店?」なんて失礼なことを平気で言ってしまった。まあ、入るときどうせ頭下げるからいいのだけれども。
入るとコノ字のカウンター、立ち食いスタイルで餃子をいただける。一見入りづらくて敷居が高そうだけど、疲れたきったサラリーマンから近くにある歯科大学の元気な学生まで幅広い客が気さくに入って行く。店長の小林さんとは今年の初め頃、ここ餃子世界東京で知人を介して知り合った。最初の印象はと言われると少し難しいが、気づいたら自然とプライベートでも飲みに行くような仲になっていた。
今日は曇天の水道橋に13時。
―お久しぶりです。universaloverallの店舗5周年パーティー以来ですね。
小林:そうだね、久しぶり。今日はよろしくお願いします。
―早速だけど、餃子屋での具体的なお仕事ってどんな感じですか?
小林:餃子の生地を仕込んだり、具材を作ったり、包んだり、焼いたり。お客さんに直接提供するところまで全部やってるよ。時には新メニューの開発やイベントの企画とかも。
―包んで焼くだけじゃなくて、いろいろやってるんですね。そんな仕事をするうえで大事にしている価値観って何ですか?
小林:うーん、多くの人は働くことをお金と直結させて考えるけど、僕にとっては人とのつながりや新しい経験が大事かな。お金はもちろん必要だけど、それだけじゃ満たされない部分がでてきて、もっともっとって求めてしまう。
―確かに。お金以外の価値を見つけるって簡単に思えて実は難しいことですよね。
小林:そうだね。お客さんやいろんな人との出会いで、自分の世界が広がる感じが好きかな。
―円より縁、ですね(笑)。
小林:うまいこと言うね(笑)。
―そんな価値観で仕事をしている中で、服へのこだわりは?
どちらかといえばあるんだけど、ファッションってあんまり得意じゃなくて。
ー確かに、すごい興味があるっていう印象は無いですね。
そうそう。自分に似合うかとか、気分に合うかとか、いろいろ考えないといけないから。ただ多くの人に会うことが多いから誰にあっても恥ずかしくないような服では居たいなと思う。
―なるほど。その観点でいうとヘリテージパンツはどうですか?
小林:今まで履いてたパンツもね悪くないんだけど、こいつはタフだし洗濯して雑多に干してもシワになりにくいからかなり重宝してるかな。ツータックのシルエットも結構気分で、作業着って感じがしなくていい。1日始まるとき、服を着替えることで気分が変わるから気合が入るのもあるかな。良いパンツに恥じない仕事しなきゃって気持ちにしてくれる。
- HT02 RELAXFIT HERITAGE PANTS
―服でモチベーションが上がるっていいね。他に仕事で欠かせない道具ってありますか?
「めんぼう、かな。」
―めんぼう?耳かき?
小林:違う違う(笑)。麺棒。手になじむ一本があって、これじゃないとダメなんだ。微妙な太さや重さが違うから、替えがきかないんだよね。
―そっちか(笑)意外とそれが麺棒って知らない人多いと思いますよ(笑)
小林:ごめんごめん(笑)
―今回の取材を通して、改めてワークウェアってなんだと思いますか?
小林:使い込んで自分の体に馴染んで、仕事の相棒になっていく、そんな存在だと思う。一緒に時間を過ごして、やっと完成するし認めてもらえるような感じかな。
僕の中で佳肴な店を見つけるポイントが一つある。「扉」だ。はるか昔の江戸で、うまい鮨屋を見つける方法が暖簾の汚れだったように。扉の質感とかデザインとか、重みがその店の真価を映し出してくれる。そしてその扉をくぐり、通うようになる店には、良い「人」がいる。小林さんが持つ雰囲気とかそういったものが再び訪れる理由になる。そしてそこには必ず「服」が加わる。服は店の扉が示す空間や人が出す雰囲気を繋いでくれ、働く価値を自然に受け取り身にまとわせてくれるものと、小林さんを取材していて感じた。佳肴な店を愛し、扉を開け、通い続けるにはその空間にふさわしい服が欠かせない。ヘリテージパンツは単なる装いではなく店の空気感と人との繋がりを深めるための一つの大切な理由になるワークウェアになった。
小林さんがそうであるように。
text and photographs hilomi yoshida